オーダー内容
今回のオーダーは大手企業の広告やアパレル分野でのヴィジュアル、グラフィック等にも携わられているアートディレクターの方から、革でリュックサックタイプのカメラバッグで使いやすい物が欲しいとのご依頼を頂きました。
仮縫い(別の安価な生地でのプロトタイプ作成)と補正を何度も繰り返して作った、今までで一番時間の掛かった製作になりました。
大まかなご要望としては、、、
・デイリーにも使用できるデイバッグタイプのリュックサックと、分離できる収納型でクッション性があり中の間仕切りが可変のバッグインバッグ。
・外側のリュックはベジタン鞣しでナチュラルカラーのレザーと帆布を組み合わせたツートーン。
・内側のバッグインバッグは頑丈な高機能素材とウレタンのクッション材。
・今まで使用していたカメラバッグはクッションポケットが幾つかに分かれていて部品毎に収納し、取り出すためにそれぞれのポケットを開かなければならなかったのが使いにくかったそうで、今回はリュックを置いてカメラを取り出す際にワンアクションで全部のパーツに手が届く事を重視されておりました。
上記の4点を踏まえて絶対条件として浮き上がってきた構造が、ファスナーが上から底まで全開に出来るという点でしたので最も頑丈で壊れにくく、尚且つスムーズな使用感のある高級ファスナーのYKKエクセラを使用し、左右どちらの手でも開閉できるようダブルジップ仕様にしました。
使用した素材や材料について
革について
自然な風合いで使用と共に味が出る素材をお求めだったことから選び抜いたのは国産で油分が強めに効いているベジタン鞣しの牛ショルダーです。
前職のレザーブランドの時代よりお世話になっている老舗タンナーのショルダーが持つシボ感、トラ感、オイル感、経時変化の絶妙なバランスが予てより推していきたい素材で、イタリアの高級バケッタレザーにも引けを取らない質感を持っており、インポートレザー程ギラついていない落ち着いたオーラを放つその素材を今回満を持して、惜しむことなく使用しました。
ベジタブルタンニンなめし(植物タンニンなめし)は、天然植物(草や木の汁など)から抽出したタンニン(渋)を使って皮をなめして革にする方法で、皮に防腐処理を施して日用品に使用出来る革本来の質感を前面に出した自然な風合いの革素材にする方法です。ベジタブルタンニンなめしは、水質や土壌、家畜が食べた物の違いからもキャラクターに違いが出る、古来から受け継がれている繊細で丁寧ななめし方です。
「ベジタブルタンニンなめし」の革の良さ
・使い込むほど艶(つや)や風合いが出て馴染んでくる
・型崩れしにくく丈夫
・染料の吸収がよく、発色がいい
「ベジタブルタンニンなめし」の革が高価な理由
ベジタブルタンニンなめしの革は、植物タンニンが一気に革の内部まで浸透しないためタンニンの濃度を段階的に少しずつ上げながらなめすために、作業工程数が多くなり、30以上の工程を踏まえる必要があります。そのため手間暇が非常にかかり、化学薬品を使って一気になめすクロムなめしに比べて2~5倍高価になります。
次に、
国産ベジタブルタンニン鞣しの牛ショルダーと合わせて選んだ帆布について、、、
帆布とは?
帆布とは、太い糸で高密度に織られた厚手の平織り布(交互に織った最も単純な折り方)の事をいいます。
発祥は古代エジプトで、ミイラの巻き布などにも麻の帆布が使われていました。
日本には江戸時代後期に伝わり、船の帆布(ほぬの)として使われていたのが名前の由来です。昔は綿帆布を使ったテント・シートも多くありましたが、現在ではバッグ・靴などの衣料品として人気が集まっています。
また帆布というのは和名で、英語ではキャンバスといいます。もともとは麻で織られた薄手の生地がキャンバスの定義でしたが、現在では画材を中心にポリエステルを混紡したものなどもあります。日本国内ではデニムでお馴染みの岡山県倉敷市児島地区で作られる「倉敷帆布」が有名で、国内の綿帆布の約7割がこの児島地区で作られています。
帆布の特徴
・とにかく丈夫
帆布の一番の特徴であり、一番の魅力が丈夫さです。もともと平織りは摩擦に強い生地ですが、帆布は糸を撚りあわせて作られているので、より高い耐久性を持った生地になっています。
・通気性に優れている
帆布は高密度でありながら通気性・吸湿性にも優れています。これは糸の間に空気を通す隙間がある事が理由です。ナイロンなどの化学繊維を使えば強度は上げられますが、どうしても通気性を兼ね備えるのは難しくなります。その点、帆布は天然繊維を使っているので、強度と通気性のバランスが上手く取れています。
・水を通しにくい
帆布は高密度に織られた生地なので、水が浸透しにくいのも特徴の一つです。シミさえ気を付けていただければ水に濡れること自体も問題ないので、雨の日も安心して使う事ができます。
・風合いの変化を楽しめる
帆布は使い込むほどに柔らかさが増し、色合いも自然と馴染んでいくような経年変化を楽しむことができます。そのため、本革とコンビで使われることも多く、年月を重ねるほどに愛着が湧いてくるのも帆布の大きな魅力です。
このように天然素材でありながら丈夫で温かみがあり、時間と共に愛着の沸く素材で仕上げていきました。
ファスナーのエクセラについて。
お馴染みの国産ファスナーメーカーのYKK社のエクセラというファスナーについてはもはや説明の必要もないかもしれませんが敢えて少し触れておきます。
他のメタルファスナーとは違い、エレメントの1つ1つの全面に入念に磨きをかけており、スライダーの滑りもとてもなめらかなファスナーです。
見て頂いて分かるようにエレメントの輝きが別格なんです。しかもゴールドのエレメントは本物の金を使っていると言うから驚きです。
価格は通常のメタルファスナーに比べると2~3倍程しますが、その手間だったり素材だったりで値段が高額になってしまうんですね。
ヴィンテージのファスナーやインポートの高級ファスナーも色々と扱ってきましたが、個人的にエクセラファスナーの「違い」を感じるのは長さを変える時のカットの工程の時です。
他のファスナーに比べて圧倒的に頑丈に作られており、カットに最も腕力の要るファスナーなのでエクセラの時は毎回筋トレになります。
デザインと構造について
置いたときに一番下まで開く。おいて全開にしたらツールボックスになる。
今までは、全部出してから準備のスタートだったのが、開けたらすぐスタートが出来るので、シャッターチャンスを逃さない。
・肩部分の構造の工夫
肩紐のクッションは肩の傾斜に沿って均等に重量が分散するように外側と内側で厚みを変えて(外側を厚く)長時間の使用にも耐えられる工夫を施しました。
・力のかかる箇所の補強
リュックの肩紐とボディーの接点の強度を帆布と革と芯素材を使用し、中縫いの本数も増やしてとにかくほつれてこない、破れない構造にしました。
・仮縫い
写真が無いのですが、外のバッグとインナーバッグの仮縫いを何度も繰り返して微調整を重ねました。
上の画像は通常のポリエステルの生地でのインナーバッグのプロトタイプですが、実物は外の天然素材バッグとは対照的にハイテク素材を使用して素材感や機能面でもコントラストを付けてみました。
インナーバッグの外装に使用した「コーデュラナイロン」は、アウトドアユースのリュックやバッグなどで使われる丈夫なナイロン生地の代表格です。
アメリカの化学繊維メーカー「インビスタ社」が開発した、ナイロンの7倍もの強度を持つ繊維です。摩擦や引き裂きなどへの耐久性はもちろん、耐水性にも優れているため、アウトドア以外でも様々なブランドのバッグやウェアに使用されており、今回使用したものは裏面に予め防水コーティングが施された物を使用し、可能な限り大切なカメラを守れる物にしました。
・出来上がり
・使用感
肩ベルトが重量を分散するのが長時間の使用を可能にしていて、外も内もファスナーが全開になるから置いたまま撮影中の作業が捗って良いとのことです。よくお会いする方ですので会うたびにバッグを褒めて頂けるのが幸せな事です。
冒頭にも載せましたが、こちらはこの方のインスタグラムからの画像達で、とても綺麗な風景写真だなといつも楽しみに拝見させて頂いております。
オーダー頂いてお作りしたバッグもこんな素敵な場所に連れて行ってもらっているのかと思うと感慨深いです!
これからも素敵な写真、アートワークを楽しみにしております!
ありがとうございました!
フルベジタブルタンニン鞣し牛ショルダー/帆布:リュック
コーデュラナイロン/クッション:インナーバッグ
・ヒアリング
・デザイン
・仮縫い
・作成
・料金目安¥250,000~(+TAX)